一枚の毛布を分け合って、キールとメルディは眠っていた。 深夜、遠くで響く雷鳴の音に、キールは目を覚ました。 (・・・雷、か・・・) まだ慣れないセレスティアの地。 インフェリアンのキールには雷鳴は雑音に聞こえる。 神経質なキールは、耳障りなその音にすっかり目を覚ましてしまった。 隣で眠るメルディは、雷鳴の音など全く意に介さずにすやすやと眠っている。 (こちらでは雷は珍しくないからな・・・) いつもは結わいている豊かな髪は下ろされ、シーツに上に美しく広がっている。 褐色の肌と、淡い緋色の髪。その対比が美しく、そんなメルディを眺めていると、キールはまた自分の身体に熱があつまるのを感じた。 「・・・っ」 メルディと出会うまで、キールは自分にこんなにも性的欲望があるとは思っていなかった。 大学で、女性経験が無いわけでは無かった。 しかし、確かにきもちいいものではあったが、味気無くもあった。 自分は不感症なのかもしれないなどと、相手の女が隣で眠っているのにそんなことを考えたりしていたのだが。 メルディに出会って、そして好きなのだと自覚してからの自分の変化に、キール自身戸惑っていた。 女性に、自分から触れたいなどと、思った事は無かったのに、メルディには触れたいと思った。強く強く、触れたいと思った。 だから、今日、メルディと肌を重ねることが出来た時、キールはその事実だけで達しそうになった。 想い会う人とするだけで、こんなにも甘美な行為になるのかと、そんなことを思った。 しかし、キールには不安もあった。 メルディには、過去に何人か恋人がいたようだし、・・・同棲、もしていたらしい。 恐らく自分よりも経験があるのだろう。 自分はそんなメルディを満足させられるのだろうか。 勿論、メルディはそんなことを気にはしないだろうし、 前の恋人とキールを比べたりもしないだろう。 それでも気になってしまうものは気になってしまうのだ。 (・・・そういえば、メルディ、あまり声をあげなかったな) メルディの嬌声を殆ど聞けなかった気がする。 普段のメルディは、スキンシップも激しい。 人前で抱きしめたり、キスしたりを平然とする。 セレスティアンはどちらかと言うと、みなそうなのかもしれないが、 その度にキールはたじたじになっている。 だからてっきり、行為の間も積極的なのかなどと思っていたが、 ベッドに横たえて、キスしたとたん、恥ずかしげに俯いてしまったのだった。 メルディの、普段と正反対のその様子に、キールは征服欲を駆り立てられた。 (・・・僕ばかり急いてしまったんだろうか) 声を上げなかったのは恥ずかしかったからなのか、 それとも。 (・・・良くなかったの・・・だろうか) 「・・・ふぅ」 「・・・キール、眠れないか?」 「メルディ、起してしまったか?」 メルディはふぁ、とあくびをしながら体を起した。 もぞもぞと毛布を胸元にたくし上げているが、身体の曲線はちらりと見える。 「大丈夫、何かたまたま目がさめちゃったよ」 「そうか、・・・メルディ、一つ聞きたい事があるんだが、・・・聞いても良いか?」 こんなことを聞くなんて、自分でもどうかしていると思う。 思う、が、気になりだすと止まらないのが自分の性分だった。 「うん?キールが聞きたいことあるなら聞くが良いー!」 「・・・あの、な、さっき・・・お前、あまり声をあげなかっただろう。 ・・・良く、なかったのか?」 「?!」 思いがけない質問に、メルディは顔を染める。 「な、急に何言うか!」 「・・・その、不安なんだ。・・・ちゃんとメルディを気持ちよくできたのかどうか・・・」 「あ、のな、・・・ちゃんと・・・良かっ・・・た」 心底恥ずかしそうにそう答えるメルディに、キールはほっとした。 「そうか、・・・良かった」 なら、やっぱりメルディは恥ずかしいから声を上げるのを我慢していたんだろう。 でも、次からは、出来れば声を聞きたい。 「・・・出来れば、次から声を上げて欲しいな、・・・駄目かな。メルディの声も聞きたいんだ」 キールの率直な、しかし突拍子の無い頼みに、メルディは口をぱくぱくとさせる。 まさかキールがこんなキャラだとは思っていなかったのだ! 「・・・恥ずかしいな・・・そんなの・・・」 「・・・駄目か?」 「駄目じゃないよ・・・でも・・・」 何か、酷く言いにくそうにするメルディをキールは不審に思った。 「何かあるのか?」 「うー・・・あのな、その・・・」 意を決したようにきっ、とキールを見詰めると、メルディは説明した。 「セレスティアン、エローラついてるな。 ・・・エローラ、暗闇で気持ち伝え合うことできるよ・・・。だから・・・」 「!」 そこまで言われてキールは気付いた。 セレスティアンにはエローラがある。 エローラがあれば暗闇で意思の疎通が可能なのだ。 だから、行為の最中は、声を上げなくても相手に感情がダイレクトに伝わる。 恐らくセレスティアには、行為の最中に声を上げる習慣もないのだろう。 「・・・そうか」 「え」 過去にメルディと寝た男達は、メルディの声を、感じるままの声を聞いたのだと思ったら、 キールの中の何かが切れてしまった。 「んぁっ!」 「・・・感じるままに声を上げてくれ、じゃないと嫉妬で狂いそうだ」 散々キールの中で乱れさせられたメルディは、キールの希望どおりに声を上げた。 キールの腕に抱かれて、恥ずかしそうにしていたメルディは、ぽつりと呟いた。 「キールも言ってくれてないこと、あるよ・・・」 「なんだ?」 「メルディばっかりキールに好きだって言ってる。キールも、言って欲しいよ。気持ち、伝えて欲しいよ・・・。 ・・・エローラないから、キールが気持ち分からない。 メルディだって、不安だよ・・・」 自分のことしか考えられず、メルディを不安にさせていたことにキールはやっと気付いた。 エローラを持っていない事が不安なのは、自分だけではなかったのだ。 「・・・メルディ、愛して・・・いる。だから僕はここで、セレスティアで生きていこうと思えたんだから・・・」 「メルディも、キールが愛しているよ。・・・大好きだよ・・・」 |